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zoom RSS Santoka Taneda 種田山頭火 平戸入りの下り 行乞記

<<   作成日時 : 2015/04/05 10:10   >>

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行乞記  三月三十一日  四月一日  四月二日  四月三日  四月四日



種田山頭火の平戸入りの下り、1932(昭和7)年3月31日〜4月4日の日記です。



行乞記 (二)
種田山頭火 

三月三十一日 晴、行程八里、平戸町、木村屋(三十・中)

早く出発する、歩々好風景だ、山に山、水に水である、短汀曲浦、炭車頻々だ。
江迎を行乞してゐて、ひよつこり双之介さんに再会して夢のやうに感じた、双之介さんはやつぱり不幸な人だつた。
双之介さん、つと立つて何か持つてきた、ウエストミンスターだ、一本いたゞいてブルの煙をくゆらす、乞食坊主と土耳其煙草とは調和しませんね。
日本百景九十九島、うつくしいといふ外ない。
田平から平戸へ、山も海も街もうつくしい、ちんまりとまとまつてソツがない、典型的日本風景の一つだらう。
テント伝道の太鼓が街を鳴らしてゆくのもふさはしい、お城の練垣が白く光つてゐる、――物みなうつくしいと感じた――すつかり好きになつてしまつた。
当地は爆弾三勇士の一人、作江伍長の出生地である、昨日本葬がはな/″\しく執行されたといふ。
今日の感想二三、――
私は今日まで、ほんたうに愛したことがない、随つてほんたうに憎んだこともない、いひかへれば、まだほんたうに生活したことがないのだ。
私は子供を好かない、子供に対しては何よりも『うるさい』と感じる、自分の子すら可愛がることの出来ない私が、他人の子を嫌つたところで無理はなからう。
此宿はしづかでよろしい、お客といつては私一人だ、一室一燈一鉢一人だ(宿に対してはお気の毒だけれど)。

・春寒い島から島へ渡される

昨夜は何だか変な女がやつてきてうろ/\してゐたやうだつた、をんなか、をんなか、をんなには用のない私だから、三杯機嫌でぐう/\寝てしまつたが!(一日朝記)

四月一日 晴、まつたく春、滞在、よい宿だと思ふ。

生活を一新せよ、いや、生活気分を一新せよ。
朝、大きな蚤がとんできた、逃げてしまつた、もう虱のシーズンが去つて蚤のシーズンですね。
朝起きてすぐお水(お初水?)をくむ、ありがたしともありがたし。
九時から二時まで行乞、そして平戸といふところは、人の心までもうつくしいと思つた、平戸ガールのサービスがよいかわるいかは知らない、また知らうとも思はない、しかし平戸はよいところ、何だか港小唄でもつくりたくなつた。
しかし、しかし、しかし、行乞中運悪く二度も巡査に咎められた、そこで一句、――

巡査が威張る春風が吹く

「絵のやうな」といふ形容語がそのまゝこのあたりの風景を形容する、日本は世界の公園だといふ、平戸は日本の公園である、公園の中を発動船が走る、県道が通る、あらゆるものが風景を成り立たせてゐる。
もし不幸にして嬉野に落ちつけなかつたら、私はこゝに落ちつかう、こゝなら落ちつける(海を好かない私でも)。
美しすぎる――と思ふほど、今日の平戸附近はうらゝかで、ほがらかで、よかつた。
今日、途上で巡査に何をしてゐるかと問はれて、行乞をしてると答へたが、無能無産なる禅坊主の私は、死なゝいかぎり、かうして余生をむさぼる外ないではないか、あゝ。
平戸町内ではあるが、一里ばかり離れて田助浦といふ、もつとうつくしい短汀曲浦がある、そこに作江工兵伍長の生家があつた、人にあまり知られないやうに回向して、――

・弔旗へんぽんとしてうらゝか

島! さすがに椿が多い、花はもうすがれたが、けふはじめて鶯の笹鳴をきいた。
鰯船がついてゐた、鰯だらけだ、一尾三厘位、こんなにうまくて、こんなにやすい、もつたいないね。
平戸にはかなり名勝旧蹟が多い、――オランダ井、オランダ塀、イギリス館の阯、鄭成功の……

四月二日 晴、また腹痛と下痢だ、終日臥床。

緑平老の手紙は春風春水一時到の感があつた、まことに持つべきものは友、心の友である。
April fool! 昨日はさうだつたが今日もさうらしい、恐らくは明日も――マコト ソラゴト コキマゼテ、人生の団子をこしらへるのか!
しく/\腹がいたむ、読書も出来ない、情ないけれど自業自得だ、病源はシヨウチユウだつたのだ。

四月三日 雨かと心配したが晴、しかし腹工合はよくない。

寝てばかりもゐられないので三時間ばかり町を行乞する、行乞相は満点に近かつた、それはしぼり腹のおかげだ、不健康の賜物だ、春秋の筆法でいへば、シヨウチユウ、サントウカヲタヾシウスだ。
湯に入つて、髯を剃つて、そして公園へ登つた(亀岡城阯)、サクラはまだ蕾だが人間は満開だ、そこでもこゝでも酒盛だ、三味が鳴つて盃が飛ぶ、お辨当のないのは私だけだ。
昨日も今日もノン アルコール デー、さびしいではありませんか、お察し申します。
春風シユウ/\といふ感じがした、歩いてをれば。

平戸よいとこ旅路ぢやけれど
   旅にあるよな気がしない

同宿二人、一人は例の印肉屋老人、一人は老遍路さん、此人酒はのまないけれど女好き(一円位で助平後家はありますまいかなどゝといふ、人事ではないが)。(know thyself!)
印肉屋老人は自称八十八才、赤い襦袢を着てゐる、酒のために助からない人間の一人だ、ありがたうございました(これはこれ蚯蚓の散歩なり)。
もう一人の老遍路さんは、□□者のカンシヤク持、どうしても雰囲気にはあはないといふ、まつたくさうだらうと思ふ、そのくせ彼はケチンボウのスケベイだ、しかし彼には好感が持てた、野宿常習遍路にして、飲むのは二円の茶!
印肉老人また出かけて酔うて来て踊つた、踊つた、夜の白むまで踊つた、だまつて、ひとりでおとなしく――あゝ、かなしい、さみしい。
また雨、ふるならふりやがれ!
晴れて寝、曇つて歩く、善哉々々。

酔ひどれも踊りつかれてぬくい雨
ふるさと遠い雨の音がする

けふの道はよかつた、汗ばんで歩いた、綿入二枚だもの、しかし、咲いてゐたのは、すみれ、たんぽゝ、げんげ、なのはな、白蓮、李、そしてさくら。……
これだけの労働、これだけの報酬。
酒代は惜しくないけれど酒は惜しい、物そのものを愛する、酒呑心理。
人間はあまりたつしやだと横着になる。
□□を、愛する夢を見た。
とう/\一睡もしなかつた、とろ/\するかと思へば夢、悪夢、斬られたり、突かれたり、だまされたり、すかされたり、七転八倒、さよなら!

――(これから改正)――

時として感じる、日本の風景は余り美しすぎる。
花ちらし――村総出のピクニツク――味取の総墓供養。

四月四日 雨、曇、晴、行程三里、御厨、とうふや(三〇・中)

ぽつり/\歩いてきた、腹がしく/\痛むのである、それでも三時間あまりは行乞した。
腹工合は悪かつたが行乞相は良かつた。
留置郵便を受取る、うれしかつた、すぐそれ/″\へハガキをだす、ハガキでも今の私にはたいへんである。
此宿はよい、電燈を惜むのが玉に疵だ(メートルだから)。
ゆつくり飲んだ、わざ/\新酒を買つて来て、そして酔つぱらつてしまつた、新酒一合銅貨九銭の追加が酔線を突破させたのである、酔中書いたのが前頁の通り、記念のために残しておかう、気持がよくないけれど(五日朝、記)。
アルコールのおかげでグツスリ寝ることが出来た、昨夜の分までとりかへした、ナム アルコール ボーサー。

・草餅のふるさとの香をいたゞく
 休み石、それをめぐつて草萌える
・よい湯からよい月へ出た
・はや芽ぶく樹で啼いてゐる
・笠へぽつとり椿だつた
 はなれて水音の薊いちりん
・石をまつり緋桃白桃
・みんな芽ぶいた空へあゆむ



行乞記 (二) 種田山頭火 
1931(昭和6)年12月22日〜1932(昭和7)年5月31日

青空文庫より
http://www.aozora.gr.jp/cards/000146/card45387.html





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